論文投稿までの流れ

  1. 論文投稿までのスケジュール
  2. 研究計画書の作成
  3. タイムマネジメントをどうするか
  4. 論文の投稿先を考える
  5. 論文の形式を決める

1. 論文投稿までのスケジュール

1. 可能なスケジュールを立てる
2. 論文本編以外にも時間が必要
3. 半年以内の完成を目指す

※基本的に学会発表まで済んでいる(中心となるデータが揃っている)ことが前提です。

論文作成は作法に慣れれば書くこと自体は比較的簡単ですがそれでも経験が大事です。思ったよりも本文作成以外のところで時間をとられます。表を参考にして、「どれくらい時間がかかりそうか、そしてどれくらい論文に時間がさけそうか」を考えてみましょう。ただし、論文作成にだらだらと時間をかけてはいけません。後述しますが、ちゃんとした具体的な計画が必要です。

流れ 目安
Analytic planを作成し、 指導医・共著者を決めておく。 1-2週間
大まかな論文の投稿先と論文の形式を決める 数日
論文の構成を練り研究メンバーと相談 1週間
必要な文献を調べ、文献ソフトを入手する 1週間
データ解析・論文執筆を行う 1〜2ヶ月
英語の校正業者に出す 2週間
指導医・共著者に確認する。 2週間
再校正を行う 2週間
共著者全員のOKが出たら、投稿先を確定する 1週間
Cover letterを作成する 数日
投稿先の規定を読み、投稿規定に合わせて修正する 数日
投稿規定に沿って投稿する 1日
ここまでで約3〜4ヶ月
返事を待つ 数ヶ月
Rejectだった場合は速やかに次の雑誌に投稿する 1週間以内
Reviseが来た場合は早く、確実に対応する 1ヶ月
めでたくaccept 作成から6~10ヶ月

2. 研究計画書の作成と指導医への相談

1. 論文の内容に関して共著者とのコミュニケーションを文章化して行う
2. しっかりとしたplanの作成が論文作成の近道!

論文作成に取り掛かる前に、研究計画書を作成することを強くお勧めします(本当はデータ収集開始前に作っておくものですが)。研究テーマ、仮説、背景、主要論文、研究方法、解析方法、研究限界、今後の課題などを2ページにまとめます。これを書くことで自分の研究に足りていない点が浮かび上がるとともに、仕上がったプランを共著者と共有することで論文の目指すところがはっきりします。

項目 内容
Title 論文のタイトルです
Authors この段階で共著者を明確にしておきましょう。後述しますが揉めやすいところなので大事です
Study aim and hypothesis 論文の目的と仮説を書きます
Background 論文の背景を1パラグラフぐらいで簡潔にまとめましょう
Major articles 行う研究と最も密接に関係する論文を2,3本ほど記載します
Methods (design, setting, population) 研究デザイン、期間、セッティング、研究対象者をきっちり詰めておく必要があります
Exposure and outcome measures Exposureが何か?outcomeが何かをよく考えましょう。ここがしっかり書けない場合、まだ論文を書く段階にありません
Statistical analysis 統計は経験のある人に相談する必要があります
Potential limitations 予想される研究限界を考えておきます
Timeline いつまでに解析を終え、ドラフトを書き、どこに投稿するか明確な予定を立てます
Future plans 本研究を元に今後のどのような研究を行うかを考えます
References 参考文献です

指導者の選び方

本来臨床研究は、研究をデザインする疫学者、実際に解析を行う統計学者、そして研究をオーガナイズして研究費の獲得および指導を行うPrincipal Investigator (PI)が必要です。しかし日本の臨床研究を行う環境ではこれらの3者が揃っていることはまずないため、ほとんどの場合、実際に論文を書いたことのある先生にマンツーマンで指導を受けながら書いていくことになると思います。そういう先生が身近にいない場合は、JEMNetに声をかけていただいてもいいですし、学会などで自分がやりたいことと近い研究をしている先生を見つけて声をかけていくのも一つの方法です。

個人的には筆頭著者として書いた研究原著論文(original article)の本数を医者卒後年数に置き換えると、どれくらいの論文の経験があるかがわかりやすいと思います。まだ筆頭で論文を書いていない人=医学部卒業の段階、1本目を書いた人=研修医1年目終了、3本目を書いた人=後期研修医1年目終了、のイメージです。臨床と同じで3本書いていれば(=卒後3年目終了)、基本的な指導はできるかもしれませんが、全てを任せるにはやや不安が残ります。臨床でも指導医になるのは7年目〜ですから、6-7本ぐらい筆頭で英語の原著論文(症例報告・総説などは含みません)を書いている先生に指導を受けるのが望ましいと個人的には思います。


3. タイムマネジメントをどうするか

1. 書き始めてから半年以内に投稿する
2. できるだけ勢いのあるときに集中して書き上げる
3. 毎日少しでもいいから書く

論文執筆は締め切りがないため、タイムマネジメントが非常に困難です。しっかりと期限を決める事、そして、まずは10分〜15分でもいいから毎日、論文に携わることを目標にしましょう。論文を書くということは、想像以上に時間がかかります。英語だから難しいと思ってしまいがちですが、日本語でしっかりと自分が行いたい研究の筋書きを持っていたら、そこまで苦労しません。逆に英語が得意でもこれらの点がしっかりとしていないと苦労します。

また書き始めたら、絶対に間をおかないで進めるべきです。一度放置してしまうと1・2ヶ月、簡単に過ぎて行きます。そうすると、また取りかかったときに、自分が何を解析したかったのか、何を書きたかったのかがわからなくなり、またやり直しになります。自分の訴えたいことが明確なうちに、書き上げてしまいましょう!個人的にはできるだけ1週間以内に大まかなドラフトを書き上げるようにしています。英語の文法等も気にせず、時には日本語も交えながら勢いで書きます。全体が見えてくると進みやすくなるので、まずは60%の完成を目指して書くといいと思います。

数日などのまとまった時間のとれない人は、1日に1時間/1週間に半日は「論文を書く時間」としてカレンダーをブロックしましょう。この時間は他のあらゆる仕事(emailも)を遮断しましょう。これを1ヶ月やるだけでかなりの進捗があります。


4. 論文の投稿先を考える

1. Impact factorや雑誌に掲載されている内容等を下調べする
2. 自分が引用している文献の雑誌もあり
3. できるだけ早期のacceptを目指す

まずは大まかに投稿先を決めましょう。「これの研究結果ならこの雑誌が良さそうかな」というのを3つぐらい挙げます。この時に参考になるのはimpact factor (IFは雑誌名+impact factorでネットを検索すればわかります) 、h5 index、その雑誌が扱っているトピックス、そして自分が引用している文献の雑誌(往々にしてレベルが高いので注意)です。特に自分の研究と似た研究が掲載されているかどうかというのはとても大事で、投稿先にもし自分が書いている研究の「核」となる論文がある場合には(その過去の研究の上に自分の研究がなり立っている場合)、その雑誌に投稿する際にcover letterでその旨を書くと有効です。

IFは毎年変化し、臨床雑誌の場合、1点あれば世界的に認められている雑誌、5点あれば有力な雑誌になります。10点以上は総合誌もしくは循環器やアレルギー等のトップジャーナルになります。IFは過去2年間におけるその雑誌の論文の引用回数を示しているので、分野によって引用のされやすさが異なります。総合誌や内科系の大きな分野を扱う雑誌は幅広い読者がいるので引用回数も多くなりIFは必然的に高くなる傾向にあります。しかし、例えば眼科などのより専門性の高い雑誌は読者が限定されてしまうので引用回数も限定的となり、IFはそれほど高くなりません。つまり、その分野に興味のある医師の数によってIFは大きく左右されます。従って領域が異なる専門誌をIFで比べてはいけません。基礎医学系雑誌と臨床医学系雑誌では全体的に基礎医学系雑誌の方がIFは高いです。心情的には「できるだけIFの高い雑誌にacceptされたい」と思うものですが、案外、通りません…(苦笑)。我が子可愛さで自分の論文はよく見えます。ハードル的には1点、3点、5点、10点、メジャー総合誌の順に壁があるような印象です。

ところがIFには様々な問題点があり、これらの問題を解決するためにEigen Factor(EF)などの指標もありますが、日本ではあまり浸透していない印象です。最近ではGoogleがh5 indexというcitation scoreを公開しており、こちらを参考にするのもいいでしょう。

一度rejectされるとわかりますが、はじめてのrejectは「あんなに時間をかけて頑張ったのに…」と精神的にこたえます。しかも返事が返ってくるまで1-2ヶ月かかるので内容も忘れかけてしまい、次の雑誌に投稿するモチベーションを上げるのが困難になります。さらに内容もどんどん古くなるので、できるだけ早いうちのacceptを目指しましょう。

また雑誌にはopen journalと普通のjournalがあります。利点欠点はそれぞれ逆になりますが、最近はopen journalが隆盛を誇っています。普通のjournalとopen journalの大きな違いは論文の著者がお金を払うか払わないか、そして著作権が著者に帰属するかしないか、です。ちなみに勘違いされがちですがopen journalも普通のjournalも「査読の早さ」はあまり変わりません。ただし雑誌によっては方法と結果しか見ないので早い事もあります。またopen journalは誰でも読めるため、読んでもらいやすく引用されやすいという利点があります。今後は一部の学会誌以外はオープンジャーナルが主流になっていくと思います。

普通のjournalとopen journalの違い

項目 普通のJournal Open Journal
メリット お金がかからない 誰でも論文が読める
歴史ある雑誌が多い 出版までが早い
Accept率が高い
著作権が筆者
デメリット 出版までが遅い 格が低く見られがち
著作権が出版社 出版費用が10~30万かかる
Accept率が低い

5. 論文の形式を決める

1. 2500 words前後を目指す
2. Brief reportも視野に入れる

一般的には論文full length article(2,000〜3,000 words)が主なので、とりあえずこれを目安に書きます。論文の内容がシンプルな場合はbrief report(1,000 〜1,500 words)を狙うのもありです。Brief report を扱っていない雑誌もあるので投稿規定をよく読みましょう。PLoS ONE, BMJ Openなどのopen journalは長さに規定はありません。しかし、「長ければいいというものではない」ではないと言う事に注意しましょう。むしろ論文はすっきりとシンプルにまとまっている方が良いです。

報告形式 内容
Original/Research article 2,500~3,000 words。まずはここを目指しましょう。
Brief report, Research letter 上記full length articleに満たない場合はこちらを狙います。Letterとして扱われる事もあります。
Case report 症例報告
Image New Engl J Medの画像コーナーとかが有名です。
Corresponding すでに出版された論文に対してのコメントになります。質問や解釈の相違などに関して200-500字程度で自分の意見をまとめます。

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