論文投稿までの流れ
Methodsの書き方
- 過去の研究を参考にして何を書くべきかを考える
- STROBE声明に従う
- 5W1H、共通の書き方を知る
同じレジストリを使った論文がすでに発表されていれば、冒頭の書き出しはほぼ同じで構いません。あくまでも目安ですが、2500-3000 wordsの論文に対し500-800 words程度でしょう。そしてこの部分は「再現性」が大事です。つまり他の研究者がこの方法を読んで研究を再現できるように記載する必要があります。全体の流れは5W1H (When, Where, Who, What, How)になります。
RECORD声明に関して
観察研究の場合、RECORD声明(STROBE)という世界標準の規則に従う必要があります。雑誌によってはSTROBE/RECORD声明のチェックリストを埋める事を要求されます(ちなみにランダム化比較試験の場合はCONSORT声明が別にあります)。一度は目を通してどんな事を記載しないといけないかを確認しましょう。このチェックリストを埋めて提出することが要求された場合には、該当する内容が記載されているページ番号と行番号をそれぞれ記載していきます。
研究のデザイン/セッティング(study design / setting)– How, when, and where?
ランダム化比較試験、観察研究、横断研究などの研究デザインを書いた後、そのセッティングについて述べます。JEANを使う場合は「前向きに集めたデータを評価した」あるいは「前向きに集めたデータを後ろ向きに解析した」事になるため「prospective observational study」もしくは「retrospective analysis of observational data」になります。基本的に最初の一行目は研究デザインを述べます。
例) This is a retrospective analysis of multicenter registries of emergency airway management in Japan.
次にどのようなセッティングで行われたデータを用いたかを書きます。JEAN studyのように既にあるデータセットを用いた場合は、そのデータセットがどのようにデータが集められて作成されたかを簡潔に述べます。もし他の論文でも既に使われている場合は、「data were defined using described elsewhere (References)」のように書いてもOKです。セッティングでは単施設か多施設か、大学病院か市中病院か、救急外来か入院なのか、などを詳細に述べます。 JEAN研究シリーズの場合、セッティングは過去論文にあるように日本国内における多施設の救急外来になります。単施設研究ならば市中病院か大学病院か、どれくらいの規模の病院か、年間症例数はどれくらいかなどを述べると具体性が増します。
例)The participating institutions included 11 Critical Medical Care Centers and had an average ED census of 25,000 patient visits per year (range, 4200–67,000).
対象患者(selection of participants) – Who?
どのような患者が対象になったのか、inclusion criteriaとその定義を明記します。独自にcriteriaを決めるのではなく、できるだけガイドラインや過去の文献を参考にして丁寧に決める必要があります。
例) We included patients aged ≥65 years who required intubation for acute respiratory failure.(References)
次にexclusion criteria、つまり「なぜ除外したのか」の定義、およびその理由を書きましょう 。例えば「挿管に失敗した人」なら「失敗」とは何をもって失敗としたのか?などです。また、その定義が一般的に受け入れられているかどうかも大事です。理由もちゃんと正当化されないといけません(そうしないと都合のいい結果になるように患者を作為的に取捨選択した可能性が出てきますよね)。上記のようにこれらの定義も基本的に過去の論文を引用してそれに従うのが基本です。できるだけmajor journalもしくは投稿先の雑誌の論文から引っ張ってきましょう。
例1) We excluded patients aged ≥85 years because ***. (References)
例2) The exclusion criteria were intubations using video laryngoscope,
データ収集方法や測定する変数(data collection) – What and how?
どの期間に・どのように・誰が集めたかを明確にします。ここでデータの信頼性を強調することがとても大事です。「Garbage in, garbage out」というように質の悪いデータからは質の悪いデータしか生まれず、それは最終的に患者さんを不幸します。研究内容によりますが、誰がどのように、どんな項目を測定したか、を述べます。Main outcomeではなく、あくまで一般的な「変数」です。例えば、年齢、性別などの患者属性、挿管試行回数、合併症の有無、どのような薬剤を使用したか、などです。多すぎる場合は簡潔にし、必要に応じてsupplemental fileとして別ファイルを添付しましょう(JEANの場合は共通事項になります)。
例)Based on the previous literature, we defined “oral no medication” as oral intubation, in which no medications were used.
欠損値の割合をここで述べることもあります。(JEAN研究シリーズの場合は過去の論文を引用して、簡潔に述べるだけで構いません)。挿管のたびに記述式で書いてもらったことや、欠損値にはどのように対処したかを記載します。
例)We excluded 15 patients with no information on age (2%).
暴露因子 (primary exposure)
暴露因子とはすなわち、結果に寄与すると考えられる要因のことです。例えば男性患者より女性患者のほうが初回挿管成功率が高くなるという仮説に基づく研究の場合、「性別」がPrimary exposureとなります。ここでも暴露因子の定義が明確であること、かつ科学的に妥当であること、そしてその定義が広く受け入れられるものであることを意識する必要があります。前述の例のように性別などは定義が明確で、性差の影響は様々な臨床の場で報告がありますから、科学的な妥当性も担保できていると考えらます。しかし「肥満」を暴露因子とする場合、肥満の定義には様々な方法が考えられます。仮にBMIを用いると決めたら、それはBMI 25 kg/m2以上でしょうか?それとも30 kg/m2以上でしょうか?これらの定義も基本的に過去の論文を引用してそれに従うのが基本です。major journalで使われた定義を引用するなどして、自身の使用する暴露因子の科学的妥当性を強化しましょう。
例) The primary exposure was obesity. Obesity was defined as BMI ≥30 kg/m2.(References)
アウトカム(outcome measures)
Primary outcome(s)と、必要に応じてsecondary outcome(s) を述べます。アウトカムは多すぎてはいけません。特にPrimary outcomeは1個、多くても2個までが理想です。JEANの場合は初回挿管成功率や合併症率が主なアウトカムになります。ただ、成功といっても何をもって成功とするのか?を書きましょう。Main outcomeや解析に関連する言葉で曖昧なものは全て明確に定義しなければなりません。
例)The primary outcome was success of the first intubation attempt. Intubation success was defined as ***.
記述研究の場合はどんな項目を記述したのか、リストにしてここで述べます。Inclusion criteriaなどと同様に、アウトカムも過去の研究と同じ(または似ている)であることが必要です。そうでないと知見の比較ができませんよね。引用を入れてアウトカムの定義づけをサポートしましょう。
例)We described the reasons for intubation in the emergency department.
統計処理の方法 (statistical analysis)
解析は各研究で異なります。統計ありきではなく、研究仮説とデザインが決まることで用いる統計方法が決まります。JEANを用いた研究では必要に応じてrandom-effects modelなどの解析を用いる場合がありますが、この場合は難しいので解析者や指導者と相談しましょう。感度解析(sensitivity analysis) を行った場合もここに追記します。Analysisには大まかに下記のような項目を記載します。
- どういう目的でどのような解析を行ったか?
例)To determine the association between X and Y, we constructed a multivariable logistic regression model, adjusting for **. **, and ***.
- Summary statisticsはどのように表現したか。 Summary statisticsとはTable 1などで2群間を比較するときに用いるカイ二乗検定、t検定、Wilcoxon検定などを総括したものを指します。もちろん連続変数にはt検定を用い、カテゴリ変数にはカイ二乗検定を用いた…と書く方が丁寧ですが、字数制限などがある場合にはsummary statisticsでまとめてしまっても大丈夫です。
例)Summary statistics were used to compare the characteristics between X and Y
- 多変量解析をした場合、どのような変数を補正(adjust)したか。多変量解析で調整する変数は基本的に過去の知見に基づいて選択します。
例)We adjusted for *, **, and **, based on clinical plausibility and *a priori knowledge (References).
-
それらの変数をどのように選択したか。上記に述べた通り、重要と思われる変数に関してはなぜそれを選んだかを記載します。特に自分たちの研究でモデルに入れた変数に関しては説明する必要があります。
-
感度解析に関する記述(およびその理由付け)を述べる(下記参照)。
-
有意差をどのように定義したかを記載します。
例)All P-values were two-tailed, with P<0.05 considered statistically significant.
- 解析に使ったソフトはなにか。
例)We used STATA 15.0 (StataCorp, College Station, TX) and R statistical software (version 3.4.0) for the analysis.
感度解析(sensitivity analysis)に関して
感度解析とは解析に用いる前提をさまざまに変化させた場合にどのように推測(inferences)が変化するか(さまざまな前提でもinferencesが似た方向であれば、結果が頑健であると言えます)。例としてはinclusion/exclusion criteria、変数のカテゴリ分け、解析モデルを変化させることです。
例えば「2回以上の同一挿管者による連続した挿管試行は成功率を下げる」という結果が出た場合、じゃあ3回目はどうなのか?回数を連続変数とした場合はどうなのか?などを改めて解析することです。とくにinclusion criteriaを厳しくする感度分析では、どうしても統計的パワーが減ります(nが減少するため)。その際には有意差(p値)にこだわる必要はそんなにありません。それよりもinferenceの方向(例:オッズ比が1以上であるとか)が大事です。
Resultsの書き方
1. 図表がメインであり、本文はあくまで補足
1. 項目の書き方、順番はtablesと揃える
1. 図表と本文の数字が異なるのは禁忌!
Resultsの本文はあくまでもシンプルを目指します。基本的には図表に語らせるため、強調したい部分の結果だけ書き出し、サマリーとして文章にします。数字はあまり羅列すると印象が薄れます。メインの結果まではできるだけ数字を減らし、メインの結果をズバッと数字で出すとインパクトがあります。目安ですが、2500-3000 wordsの論文に対し300-600 words程度を目指します(ダブルスペース[US style]で1.5枚程度)。
① 冒頭のパラグラフではpatient flowに関して書きます。
Patient flowとは「全体で○人の患者がいて、そのうち×人が**の理由で除外され、△人が対象となった」のような”患者の流れ”です。レジストリを用いた研究の場合、「そのレジストリから、XXXのデータを含んでいるX patients (Y%) の患者を解析した」ということを含めましょう。 図でフローチャートを作り、supplemental figureとして加えるといいです。
例)From 2008 to 2015, there were ** patients intubated in the emergency department. Of these, we excluded ** patients aged<18 years, ** patients with ***.
② 次に全体のpatient characteristicsを書きます。
患者の平均年齢、男(女)性の割合などからはじまり、どのような疾患だったのか、どんな挿管方法を使ったのかを書きます。全体を細かく書く必要はありません。大体の分布や割合が分かればOKです。細かい数字は図表を見て貰えばいいわけで、文章はサマリーを示すことが目的です。1パラグラフで簡潔に述べましょう。
例)Patients who underwent RSI were more likely to be older age, male, and ***, compared to those who did not.
③ 研究目的の結果を述べていきます。
Tablesの順に沿ってパラグラフを分けて結果を述べて行くと、比較的書きやすいでしょう。まずは全体像を示し、次に個別の解析、そして感度解析の順番に書いていきます。オッズ比などには必ず95%信頼区間をつけます(P値だけ書いてはいけません)。項目の書き方(例:性別をsexもしくはgenderどちらで書くか)や順番は必ずtablesと揃えましょう。図表と本文の項目や数字が異なるのは禁忌です!
また臨床研究の論文において結果というのはあくまでも客観的な部分です。結果についての主観的意見や解釈は書かないようにしましょう(これらはdiscussionで述べる)。特に大事な点として、ここでも「査読者/読者に余計な労力を使わせない」ことを意識する必要があります
1)主語とリズムを揃える。例えば、男女比較の研究において、「男性は女性に比べて呼吸不全による挿管が多かった」という文章と「一方、女性では男性に比べて意識障害による挿管が少なかった」という文が混在すると、どっちが基準なのか分かりにくくなりますし、とても読みづらいです。
2)オッズ比などの解釈の方向を逆転させない。例えば、男性患者に比べて女性患者への挿管成功率がオッズ比2.31と高い場合に「女性患者と比べて男性患者の挿管成功率は低かった(オッズ比:2.31)」と書いてはいけません。「低い」=「オッズ比<1.0」ですから混乱の元になります。
3)都合の悪い結果にもちゃんと触れる。これは見せ方の問題でもありますが、都合の悪い結果でも、結果は結果です。さらりとでいいので触れましょう。結局レビュワーが気付いて指摘されるよりはいいです。