論文の構成を考える
- 全体の構成を練る
- 徹底的に論文を調べる
- 要約を作成する
1. 全体の構成を練る
1. 自分がこの論文で一番言いたいことを明確にする
2. 自分の研究が埋めるknowledge gapは何か
3. 図表の見せかたを考える
4. どうやったら説得力が出るかを考える
「論文投稿までの流れ」にも書いたように、まずは自分の論文で訴えたいことの筋書きをしっかり持つことが大切です。できるだけ新しく、グローバルに通用する視点が望ましいです。査読者に「世界的なプラクティスと異なるけど、どうなの?」など聞かれることもあります。日本の救急外来での挿管データであるJEANを用いた研究だとrapid sequence intubation (RSI)やビデオ喉頭鏡の使用率等が欧米諸国より低いために毎回査読者に聞かれて苦労しました(国内のみの視点では、国際誌への投稿は難しいです。ただし、日本国内への発信という点で意義があります)。逆に日本ならではの強みがある場合はそれを生かすことが大事です。自分のデータがいかにnovelであるかをよく考えましょう。
そして必ず「So what?」を大事にしましょう。『この論文を通して何を主張したいのか』、そして、『それが何に繋がるのか』を明確、かつシンプルに述べられるようにしないといけません。データがたくさんあると、あれもこれも伝えたくなってしまいますが、メインのメッセージは一つに絞った方が書きやすく、伝わりやすいです。
統計解析に抵抗のある方も多いと思いますが、統計解析のウエイトはそこまで大きくありません。研究のデザイン、訴えたいことの筋書きを描くことが8割以上です。ただし解析は適当に行うと間違った結果が出る可能性があるので、統計の経験のある先生に相談する必要があります(JEMNetの研究者であれば統計グループに相談してください)。研究のメインはMethodsとResultsですが、それに説得力を持たせるのがIntroduction/BackgroundとDiscussionです。次に述べる文献探しが甘いとここに説得力を持たせられません。どういうストーリーだと魅力的なのかを徹底的に文献を調べて、考えて、練りましょう。
2. 論文収集
1. 徹底的な文献検索が必要
1. 読んだ論文はまとめておく
1. What’s known、そしてwhat’s unknown (= knowledge gap)を明確にするのが目的
共著者として論文のチェックを行っている時によく思うのが「自分の主張したいことが先立ちすぎて、研究の背景となる文献の吟味が不十分」ということです。
論文を書く目的は新しい科学的知識(knowledge)を世の中に出すことです。その際に、自分の研究が過去の研究とまったく独立しているということはありません。過去の研究のうえに、自分の研究があり、そしてknowledgeを増やしていくのです。そこで『何故、自分の研究が大事なのか?』『今までの研究とどう違うのか?』を訴えるために、論文収集は必須です。自分の研究テーマに関する論文を、全て探して読んで下さい。早く論文を書き始めたいがゆえに、ここをおざなりにしがちかもしれませんが、数日〜一週間かけてしっかりと検索して論文を読み込んでおくことで、論文に「厚み」が出てきます。論文作成において最も時間をかけるべきところの一つでもあります。
例えばJEANのデータを使って「レジデントの緊急気道管理」についての研究をしよう!という場合、まずは総論を把握するためにUpToDateなどで該当するトピックを最初に読むのがいいです。次に「emergency airway management」「emergency (tracheal) intubation」「resident」「resident physicians」などのキーワードを使い、PubMedやGoogle scholarで検索しましょう。ただし、いきなりPubMedで網羅的に行おうとすると、要所を外してしまうことがあります。これを防ぐためにはUpToDateや検索した論文の中で、何度も引用されているようなkeyとなる論文やレビュー論文を探し、その論文のreferencesやrelated articles をチェックしましょう。またgoogle scholarではなく、普通のgoogleで検索して上位から見ていくのもオススメです。
この論文収集を怠るとintroductionやdiscussionで苦労する事になります。可能であればdiscussionの構成を考え、その上で必要になりそうな論文は特に注意して探しましょう。また、参考文献になりそうなものは、検索しながら論文管理ソフト(※後述するEndnote等)に入れておくと便利です。ExcelでPubMed IDと筆頭著者、タイトル、簡単な内容を表にしておくのも便利です。
もうこれだけで大変、と思ってしまうかもしれませんが、しっかりとした論文を読むことで、自分の論文の書き方の参考になります。ここを疎かにすると良い論文は書けません!特に英語の苦手な人は論文の下調べを怠りがちですが、十分な論文の下調べが無いとぼんやりとしたintroduction/discussionになってしまい、説得力の無い貧弱な論文になってしまいます。
3. 日本語での要約作成
1. 共著者に内容が分かるようにする
2. 箇条書きなどで簡潔にまとめる
3. メインメッセージと論理の流れに気をつける
日本語なら論文書けるのに…と思うかもしれませんが、日本語でもちゃんと書くのは難しいです。
研究計画書を参考にして、まずは論文に書く内容を簡単に箇条書きにしてみましょう。一緒に研究している人が日本人の場合は、まず日本語で各セクションの要約を書きます(最終的には英語にしますが、全体の流れなどは日本語の方が把握しやすいです)。上記のように「何を主張したいのか」(メインメッセージ)を明確にして、introduction, methods, results, discussionに関してまとめます(特にintroduction, discussion)。ポイントを箇条書きで良いので一度整理してみると論理の飛躍が自ずとわかってきます。これができたら論文の半分は終わったようなものです。
また、この要約があると他の人と論文作成のステップを共有する時にも役立ちます。英語だとニュアンスや文法が間違っていたりして伝わらないことが多々あり、お互いのストレスになります。